認知症予防について

花を育てる高齢者はいきいき 認知症予防に「園芸療法」が注目

美しい花は、生活に潤いをもたらしてくれる。しかも、花の恩恵はそれだけではない。医療や福祉の現場では今日、草花を育てるガーデニングが体に良い影響をもたらすとして注目されている。
 高齢者の認知症予防、さらには脳梗塞やうつ病、糖尿病をはじめとする生活習慣病予防にも効果が期待できるそうだ。

アルツハイマー病の女性が積極的に話すように

兵庫県たつの市にある「リハビリテーション西播磨病院」に、74歳の男性Aさんが入院している。6年前にパーキンソン病となり、さらに昨年脳の血管に障害が発生。左足の動きが悪くなり、誰かの支えがないと歩けなくなった。院内では通常のリハビリに加え、30分間のガーデニングに精を出している。現在キュウリを育てているAさんは「楽しい」と話し、表情は明るかった。実は今では、杖を使えば自力歩行ができるようになったのだ。

もうひとり、80歳の女性Bさんは3年前にアルツハイマー病と診断された。新しい出来事は忘れてしまうことが多い。消極的になり、会話をしなくなった。だが1年前からガーデニングを始めると、Bさんに変化が見られた。番組スタッフが声をかけると、サクランボを栽培している様子をうれしそうに話し始めた。「花が咲いてきれい。サクランボの実がなって、それを食べて、楽しいことがいっぱい」と冗舌だ。今では、誰とでも積極的に会話をするようになった。

同病院の樫林哲雄医師はBさんについて、「自宅で引きこもりがちになっていたが、園芸を通して活動性が上がり、意欲と興味が改善してきた」と語った。さらにBさんの介護を続けてきた夫にとっても、会話の乏しかったBさんとコミュニケーションがとれるようになって、負担が軽減されたと話した。

草花やガーデニングを通しての「園芸療法」は、1950年代に米国や北欧で退役軍人を治療する目的から始まった。日本では2002年、阪神・淡路大震災の被災者ケアなどに取り入れられ、今日では全国の病院や福祉施設で実践されている。園芸療法を長年研究している東京農業大の浅野房代教授は、園芸療法は認知症やうつ、糖尿病、骨粗しょう症に有効で、生活習慣病の予防効果も期待できると説明した。

「実はガーデニングは、相当の運動量になります」と指摘したのは、金沢クリニック院長の森岡尚夫医師。軽い腕立て伏せや腹筋と同じ運動効果が得られる。つまり、10分間ガーデニングをすれば、腕立て伏せを10分間続けたときの運動量に匹敵する計算だ。同クリニックで、平均年齢64歳の糖尿病患者7人に2時間の園芸療法を2週間に1回、6か月実施したところ、空腹時血糖値やコレステロール値、中性脂肪に改善が見られたそうだ。

軽い腕立て伏せや腹筋と同じ運動量

植物に触れて香りを楽しみ、興味を持つと外出するようになるので、健康効果が望める。園芸では、草花をいじる際に指先を使った細かい作業が必要になるため、自然にリハビリになる。同じリハビリでも、毎日単調な運動メニューを繰り返すのは億劫になりがちだが、自分から植物を世話したいと考えれば自発的に体を動かすというわけだ。

自宅に広い庭やベランダがなくても、室内で鉢植えの花を育てるだけでも、十分に効果が期待できる。例えば、水をたっぷり入れたじょうろで水をやり、枯れた葉を取り除くときにあえてハサミを使うよう心掛け、細かい作業を増やす工夫をしてみるとよい。浅野教授によると、両手をしっかり使って握力を維持すれば、認知症予防につながるそうだ。また、種から育てることが大事なポイントだ。芽が出たり花が咲いたりするたびに喜びを感じると、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌される。このホルモンが、免疫力を向上させる働きがあるからだ。

まずは育てやすい植物から始め、長く続けることで心身ともに健康を目指したい。


※【主治医が見つかる診療所】(テレビ東京)2016年7月25日放送
「認知症&生活習慣病に効く!最新ガーデニング療法」より引用